長野県消防防災ヘリコプター墜落事故で亡くなられた機長が航空法に則った身体検査証明証の申請をしていなかったということで書類送検されました。
ヘリ墜落機長、航空法違反容疑で書類送検
2017年3月に起きた長野県消防防災ヘリコプター墜落事故で、長野県警は19日、ヘリ運航に必要な航空身体検査証明書の申請に当たり、既往症はないと虚偽の申告をしたとして、航空法違反容疑で亡くなった機長を書類送検した。
出展:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190919-00000109-kyodonews-soci
なにが問題なのでしょう? まとめてみました。
1. 航空身体検査証明書の申請について
航空機の乗組員は航空法第31条の定めによって、航空機の操縦免許と国土交通大臣又は指定航空身体検査医による航空身体検査証明を取得する必要があります。
航空身体検査証明には事業用と自家用で第1種と第2種の違いがありますが、航空身体検査証明書の取得が必要です。
消防ヘリの運転をする為には第1種航空身体検査証明書の取得が必要ですが、これは国土交通省の航空局長が定める航空身体検査マニュアルに沿った要件を満たしていることが必要です(後述)。
2. 機長が抱えていた持病は何が問題?
共同通信社が発表していた機長の持病は以下の通りです。
長野ヘリ墜落で機長を書類送検へ 航空法違反疑い
長野県松本市で2017年3月、県消防防災ヘリコプターが墜落し、消防隊員ら9人が死亡した事故で、長野県警が19日にも、航空法違反の疑いで、死亡した機長=当時(56)=を書類送検する方針を固めたことが、捜査関係者への取材で分かった。
機長は事故より前の16年9月、航空法で定められている航空身体検査の際に、病歴や薬の服用について必要な申告をしていなかった疑いが持たれている。
運輸安全委員会が18年10月に公表した報告書によると、機長は甲状腺の持病や膝付近の動脈の病気で投薬治療中だったが、全く申告せずに乗務に必要な「航空身体検査証明」を受けていた。
出展:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190919-00000060-kyodonews-soci
まず、機長は甲状腺の持病があったことが判明していました。
これは、以下の航空身体検査マニュアルで以下の様に規定されているルールを無視して身体検査時に適正な申請を行っていなかったということになります。
1-5 内分泌及び代謝疾患
1.身体検査基準航空業務に支障を来すおそれのある内分泌疾患若しくは代謝疾患又はこれらに基づく臓器障害若しくは機能障害がないこと。
2.不適合状態
2-1 甲状腺疾患で治療を必要とするもの
2-2 下垂体疾患、副腎疾患又は副甲状腺疾患
2-3 常時インスリン又は経口血糖降下薬を必要とする糖尿病
2-4 痛風又は痛風発作のおそれがある高尿酸血症
2-5 臓器障害のおそれがある脂質異常症
2-6 腫瘍又はその既往歴若しくは疑いがあるもの
2-7 内分泌疾患の手術歴のあるもの
出展:https://aeromedical.or.jp/manual/pdf/h300612_184.pdf
次に膝付近の動脈の病気で投薬治療中だったことについてですが、こちらも以下の様に航空身体検査マニュアルに沿った要件を満たしていることが必要でした。
3-3 冠動脈疾患
1.身体検査基準冠動脈疾患又はその徴候がないこと。
2.不適合状態
2-1 心筋梗塞若しくは狭心症又はこれらの既往歴のあるもの
2-2 無症候性心筋虚血又はその既往歴のあるもの
2-3 冠動脈障害に対する治療歴のあるもの
(1)経皮経管冠動脈形成術(PCI) (2)冠動脈バイパス術(CABG) (3)その他
3.検査方法及び検査上の注意
3-1 安静時心電図検査は、
3.循環器系及び脈管系
3-2心筋障害、
3.検査方法及び検査上の注意に準じる。
3-2 安静時心電図所見又は臨床所見上、上記不適合状態が疑われる場合は、安全性を考慮した上で、必要に応じ運動負荷心電図検査を行う。運動負荷心電図検査の判定が陽性である場合又は検査が困難な場合は、冠動脈CT検査又は核医学検査(タリウム-201若しくはテクネチウム-99mによる負荷心筋シンチ検査)を実施し、十分な検討を行うこと。3-3 運動負荷心電図検査を行う場合、心拍数が年齢相当最大心拍数の85%以上になること。 年齢相当最大心拍数=(220-年齢)回/分
4.評価上の注意
4-1 冠動脈疾患は航空の安全を脅かす疾患であるため、心電図の判読に当たっては、必要に応じて循環器専門医の診断により確認すること。
4-2 運動負荷心電図、冠動脈CT検査及び核医学検査の判定については、循環器専門医の診断により確認すること。
4-3 安静時心電図所見及び臨床症状から上記2.不適合状態が疑われる場合で、運動負荷心電図で虚血を否定できない場合には、冠動脈CT検査で有意な狭窄が認められないか又は核医学検査で虚血所見が認められなければ適合とする。ただし、冠攣縮性狭心症の疑いのある場合は不適合とする。
出展:https://aeromedical.or.jp/manual/pdf/h300612_184.pdf
・・・ということで、事故当時パイロットは本来身体に不調があることを報告していなければならなかったのに、それを怠っていたということになります。
もし、事故がパイロットの身体の不調によるものでしたら由々しき問題ですね。
3. まとめ
航空機を運転される方は一旦事故をおこすと被害が大きくなりますのでルールに則り、しっかりと仕事に取り組んでいただきたいと切に思いました。